2024年06月

 弁護士石畑晶彦弁護士小笠原憲介です。6月24日、最高裁判所にて当職らが代理人をしている事件の最高裁判決がありましたのでご報告いたします。

1 経過

・第1審 横浜地方裁判所 第2民事部

     令和2年7月14日  提訴

     令和3年11月17日 判決

・控訴審 東京高等裁判所 第17民事部

     令和3年11月26日 控訴

     令和4年5月25日  判決

・上告・上告受理申立 最高裁判所 第1小法廷

     令和4年5月31日  上告・上告受理申立

弁論期日 令和6年5月9日(木)午後3時00分 

判決期日 令和6年6月24日(月)午後3時00分 

2 当事者

原告 8名(本件共同ビルに居住している住民ら)

被告 神奈川県住宅供給公社(以下、「公社」とします)

3 事案の概要

 公社は、これまで地方住宅供給公社法施行規則第16条2項に基づき、一方的に賃料の増額改定を行っていました。

 同規則第16条2項:「地方公社は、賃貸住宅の家賃を変更しようとする場合においては、近傍同種の住宅の家賃、変更前の家賃、経済事情の変動等を総合的に勘案して定めるものとする。この場合において、変更後の家賃は、近傍同種の住宅の家賃を上回らないように定めるものとする」

 しかしながら、本来であれば、原告らの各部屋の適正賃料は鑑定に基づく金額であり、減額されるべきです。

 そのため、①各部屋に対応する「適正賃料を超えた年月日」欄記載の各年月からの賃料が、各部屋の「各室月額継続賃料」欄記載の賃料であることを確認すること、及び、②不当利得返還請求権に基づき、原告ら各人に対して、適正賃料と支払った賃料との差額の合計額とこれに対する遅延損害金の支払いを請求した事案です。

4 本判決の意義

(1)通常の賃貸借契約(民間から賃借する場合)には、借地借家法第32条1項の規定があり、それに従って、継続賃料(途中で賃料を変更する場合の)賃料額を増減するか否かが決まります。この場合、当事者同士が承諾をして合意をするか、賃料増減額の調停において合意するか、または、裁判の判決によって決まらない限りは、賃料増減額することはできません。

(借賃増減請求権)

第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。

 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

(2)しかし、住宅供給公社などの公的な機関から賃借する場合には地方住宅供給公社法施行規則16条2項を根拠に一方的に(賃借人の同意はありません。一方的に書面等で通知されるだけです)賃貸人である地方供給公社から賃料の増減額をしていました。

(3)これに対して、本判決は以下のように判示しています(一部抜粋)。

 「公社規則16条2項の上記文言からしても、同項は、地方公社が公社住宅の家賃を変更し得る場合において、他の法令による基準のほかに従うべき補完的、加重的な基準を示したものにすぎず、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対して上記形成権を付与した規定ではないというべきである。…以上によれば、公社住宅の使用関係については、借地借家法32条1項の適用があると解するのが相当である。」

(4)つまり、公社住宅においても、通常の賃貸借契約(民間から賃借する場合)と同じように、借地借家法第32条1項の規定に従って、継続賃料(途中で賃料を変更する場合のことである)賃料額を増減するか否かが決まることになります。

 したがって、これまで公社が一方的に賃料を増額していた本件において、借地借家法第32条1項の規定に従っていない以上、公社が賃料を増額する法的な根拠はないことになりました。

 今後、原告らとしては、根拠のない増額分の賃料を支払っていたことを理由に公社に返金を求めるなどして、東京高等裁判所にて引き続き審理を進めていきます。

以上

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 神奈川県弁護士会から2024年5月8日付で注意喚起がされていますが、ロマンス詐欺・投資詐欺等(SNS等を通じて、恋愛感情を抱かせたり、投資・副業に誘ってお金をだまし取る手口の詐欺等)の被害に遭われた事件は、現実には被害額を十分に回復することが難しい事案が少なくありません。

もちろん、回収に成功した事例もありますが、確実に回収できる類型ではなく、少なくとも難しい類型であることは間違いありません。

 他方で、一部の弁護士によるインターネット広告等を通じて上記のような事案の被害回復を依頼される方が、十分な事件見通しの説明を受けず相当額の回収が得られるものと思い違いしたまま、現実の回収見通しや業務内容に見合わない高額な着手金を支払うなどして、結果的に被害が拡大(二次被害が発生)しているというべきケースが見られます。

この場合、被害回復が十分得られない一方で、高額な着手金の返還も得られずに相当額の費用倒れとなるおそれがあります。

 特に、弁護士費用に関する説明・協議や委任契約、方針協議等の重要な場面で、広告に表示された弁護士本人が面談や対応をせず、弁護士登録上の連絡先と異なる広告表示上の電話番号で、主に事務職員と称する者(弁護士ではない者)が応対し、弁護士自身による回収見込等の説明を経ないで、LINE等を通じて電子委任契約書を用いて委任契約や着手金支払(決済アプリを通じた決済処理を含む)を急かしてくるような場合は、二次被害に繋がりやすい状況と考えられます。このような状況においては、当該弁護士に弁護士法、弁護士職務基本規程違反等が疑われる場合もあります。

 上記のような事案においては、事件の見通し・困難さをご理解頂いた上で、弁護士に委任すべきかどうかを慎重に判断するようご注意ください。

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 弁護士黒澤知弘です。

 2024年(令和6年)5月31日の讀賣新聞に以下の記事が掲載されました。 

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