2016年8月23日

核抑止力の正体

弁護士 小賀坂徹です。

 

核兵器を持つことによって核兵器を使わせない力とする、これが「核抑止力」。

つまり他国に対して、「お前が核を使ったらこっちは倍にして返してやるからな」と脅して、

相手に核を使わせないようにするという理屈。

したがって、相手よりもより優位な力を誇示できなければこの理屈は通用せず、際限なき核軍拡競争に発展していかざるを得ないことになる。

 

この「核抑止力」論に立った場合、核は常に使える兵器でなければならないことになる。

いつでも核を使えるという前提に立たなければ「抑止」が成り立たないからだ。

核を使わせないために、核をいつでも使える状態にしておくということを、

すべての核保有国が相互にしているのであれば、これは文字通りの「一触即発」の状態といっていい。

これが現実の世界である。このように私たちは地球を滅ぼす核戦争の脅威と隣合わせで生活しているのだ。

 

ここから脱却するためには、「核抑止力」の呪縛を捨て去り、核兵器の即時廃絶の道に踏み出すしかない。

そのロードマップの作成こそ、世界の叡智を結集して行われなければならない最優先課題だ。

 

ところで世界最大の核保有国であり、世界で唯一原子爆弾を2度投下した米国のオバマ大統領が核の先制不使用を検討していることに対し、

世界で唯一原子爆弾を2度投下された我が国の首相は「抑止力が弱体化する」との懸念を米国に伝えたと、ワシントン・ポスト紙が15日に報じている。

 

安倍首相はこのことを否定しているようだが、日本政府は一貫として「核抑止力」論の立場にたっており、

核廃絶も「究極の目標」として遙か彼方に追いやり、

国連総会では、毎年、圧倒的多数で採択されている核兵器禁止条約の国際交渉開始を求める決議についても20年連続で「棄権」していることからすると、

安倍首相の核先制不使用に対する懸念表明は、相当の根拠があると思わざるを得ない。

 

核の先制不使用は核兵器即時廃絶とはほど遠いが、しかし核を使えない兵器とする「始めの一歩」としての意味はあろう。

特に世界最大の核保有国である米国が宣言する意義は小さくない。

核を使った側の米国の核の先制不使用について、核を使われた側の我が国の首相が懸念を表明するなどということはマンガを通り越して犯罪的といっていいのではないか。

 

結局のところ「核抑止力」はいつでも使える核の存在を前提とするのであり、その立場に立つ以上、核兵器の存続を求めるしかないのだ。

新しい防衛大臣も、新たな東京都知事も、我が国の核保有は選択肢のひとつといって憚らない女性である。

71回目の原爆忌の直後の核先制不使用懸念報道に触れ、こういう政治家が跋扈するのはさもありなんと思った。

 

 「核抑止力」からの決別、これこそ世界の歩む道であり、本来であれば我が国がそれをリードしていかなければならない。

今からでも遅くない、と強く思う。