2020年06月

 弁護士小賀坂徹です。

 二転三転した挙句、すべての住民に一律10万円が支給されることになった特別定額給付金。しかし、実際に受けとった人はまだ多くないだろう。

 ここにきて、この給付金を巡る自治体の窓口の混乱ぶりが際立ってきており、そうした報道も相当目につくようになっている。

 自治体の窓口が混乱しているのは、特別定額給付金のオンライン申請をマイナンバーカード所持者に限定し、その方が早く受領できると喧伝されたため、カードを所持していない住民が新規にカードを作るため、窓口に殺到したのが一つの要因である。

 そして、もう一つは後に述べる電子証明書のパスワードのロックを解除して、新たなパスワードを再発行するために、多くの住民が窓口に押し寄せている。報道によるとどうも後者の方が多そうである。

その挙句、高松市ではオンライン申請を取りやめているし、他の自治体でも郵送申請を呼び掛けているという状況だ。一体、政府は何をやっているのかと嘆きたくなる。

 ここでマイナンバーカードを使った特別定額給付金のオンライン申請の方法についておさらいしておこう。

 まず、マイナンバーカードを利用してマイナポータルの個人サイトにアクセスしなければならない。そのためにマイナンバーカードに対応するカードリーダーを購入するか、スマートフォンにマイナンバーカードを読み込めるアプリをダウンロードしなければならず、これらには対応できるスマホの機種が限定されている(比較的新しいものなら対応しているが、古い機種だった場合スマホ等を買い替えなければならない)。

そしてサイトから申請書類をダウンロードし、必要事項を記載した後、電子証明書のパスワード(カード発行時に設定した英数字6〜16文字)を入力し、送信するという流れである。

電子証明書のパスワードの入力を5回連続で間違えるとロックがかかり、自治体の窓口でロックを解除してもらい、新たな暗証番号を再発行する必要があるので、前述のように窓口の混乱に拍車がかかっているのである。

そもそも、全くといっていいほど使う必要のない複雑なパスワードを記憶しておけという方がどだい無理な話で、今回の混乱状況は容易に予想できたことである。

 そう、今回の特別定額給付金を巡る混乱状況の原因は、給付金の受給にマイナンバーカードを活用したオンライン申請という方法をとったことにあるのである。

 そもそも給付金のオンライン申請にマイナンバーカードを使う必然性はまったくない。その証拠に、個人事業主に認められている持続化補助金のオンライン申請についてはマイナンバーカードもマイナンバーも全く無関係にできる仕組みになっているのである。他の給付金のオンライン申請も同様である。

 マイナンバーカードの普及率はもともと15%程度であり、その中で世帯主はさらに限定される。マイナンバーカードの所持者に限定してオンライン申請を認めるということは、そもそもその恩恵に預かれるのはせいぜい1割程度しかいないということが分かりきっていたということになる。

申請の選択肢を増やして、多くの国民が簡便な方法でできる限り給付金を受け取りやすくするようにしようとするのであれば、こんな方法はそもそも取りえないのだ。

 ではなぜマイナンバーカードの所持者に限定してオンライン申請を認めるということにしたのか。それはコロナ禍の危機的状況に乗じて、一向に普及の進まないマイナンバーカードの普及率を上げようとする魂胆からだ。それしかあり得ない。つまり動機が不純なのだ。

多くの住民が生活に苦しみ、一刻も早い支給を求めているときに、それと全然関係のない目的を持ち込むことによって手続きを複雑にし、自治体の窓口を混乱させ、自治体職員に過度の負担を強い、結果として給付が遅れるという状況を招いているのである。政府は、今の住民の苦しみをまるで理解していない、まさに犯罪的な所業である。

 繰り返すが、今回の混乱の原因は、特別定額給付金のオンライン申請に何ら必然性のないマイナンバーカードを無理やり使ったことにある。マイナンバーカードなどを用いずにオンライン申請の仕組みを作りさえすれば、こんなことは起きなかったのである。

 しかし、ここにきて自民党の中から、マイナンバーカードの所持を義務化するとか、預金口座をマイナンバーに紐づけるべきだとかという議論が起きている。完全なすり替えである。今回の混乱の原因は、マイナンバーカードの普及率が低いことでも、マイナンバーに口座が紐づけられていないことでもない。ほとんど普及しておらず、パスワードも忘れているであろうマイナンバーカードを、オンライン申請に使ったことそのものである。だからこれを教訓とするのなら、2度と給付金の申請にマイナンバーカードなどを使わないことだ。

 マイナンバーカードが普及しないのは理由がある。それは大した利便性もないのに、紛失や盗難にあったときのリスクは図りしれないからである。一生に何度あるかわからない給付金の受給が、こうしたリスクを乗り越えるベネフィットになるとは到底思えない。さらに預金の紐づけとなればなおさらだ。

 権力は正しく恐れる必要がある。権力の前で自分が丸裸にされるのを嫌うのは当然なのだ。個人の領域にやすやすと権力が踏み込んでくるのは勘弁願いたい。こう思うのはボク一人ではないはずだ。これこそがプライバシー権なのである。

 火事場泥棒とは、火事で混乱した現場で窃盗を働くことであり、転じて、人々が混乱している中で不当な利益を得ること、または利益を得る者をいう。コロナ禍という未曽有の混乱状態に乗じて、マイナンバーカードの普及を図ろうという不純な動機は火事場泥棒そのものであるし、その失敗に乗じてマイナンバーカードの所持の強制などに結びつけることもまた火事場泥棒のやり口といっていい。検察庁法改正の企みといい、どうやらこの政権はこうした体質をもっているといえそうだ。

カテゴリー: ブログ, 弁護士より |  「動機が不純」あるいは火事場泥棒のメソッド ~特別定額給付金支給の混乱の根本要因は何か~ はコメントを受け付けていません。

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