弁護士の竹中由重です。
先週5月25日、横浜地方裁判所第9民事部(江口とし子裁判長)は、
神奈川県内の建設作業従事者らが起こした建設アスベスト訴訟で、
原告らの請求をすべて棄却するという極めて不当な判決を言い渡しました。
アスベスト(石綿)とは、ガラス繊維などの繊維状の鉱物のことで、
従来、耐火性や保温性に優れた建材として広く利用されてきましたが、
吸入すると石綿肺や肺ガンなどの原因となるため、現在では使用が禁止されています。
建設アスベスト訴訟は、このアスベストを吸引して石綿肺や肺ガン等を患った建設作業従事者とその遺族ら計87名が、
アスベストの危険性が明らかになった後も、建材メーカーが石綿含有建材の製造等を中止せず、
国も当該建材の使用を禁止しなかったばかりか、むしろ使用を促進してきたことが違法であるなどと主張して、
国と建材メーカー44社に対し、計28億8000万円余りの損害賠償を求めていた訴訟です。
判決は、まず国の責任について、国が疾患予防のために規制権限を行使すべきというためには、
その時点において、疾患発症の「相当程度の危険の蓋然性」があるだけでは足りず、少なくとも
「当該疾患の発生原因に関する医学的知見が”確立”していること」が必要であるという高いハードルを設定した上、
「昭和47年の時点で、石綿粉じん曝露により肺がん及び中皮腫を発症するとの医学的知見が確立した」と認定し、
それ以前はもちろん、平成18年に至るまでアスベスト建材の使用を全面禁止しなかったこと等についても、
「著しく合理性を欠く」と言うことまではできないなどとして、国の法的責任を否定しました
(ただし、判決文の最後で、補償制度の創設など立法による救済の必要性を示唆しています)。
また、被告企業44社との関係でも、共同不法行為(民法719条)の成否について、
原告らの主張では加害行為の特定がなされておらず、
被告企業らの行為を「社会通念上全体として一個の行為」とは評価できないから、
民法719条前段を適用できないとしたほか、
「被告企業44社以外に損害発生について疑いをかけることのできる者」が存在する可能性も否定できないから、
同条後段も適用できないなどと述べて、原告らの請求をすべて棄却しました。
しかしながら、この判断は、国の規制権限の行使について、非常に広範な裁量を認めるもので、
本来裁判所が果たすべきチェック機能を事実上放棄するものです。
また、被告企業らの責任についても、加害行為の厳密な特定や加害企業の範囲の画定など、
原告らに過大な主張立証責任を負わせることを前提とした判断がなされており、
バランスを失した不当な判断と言わざるを得ません。
アスベストは、体内に吸引すると10年から40年ほどの潜伏期間を経て、
石綿肺・肺がん・中皮腫など様々な石綿関連疾患を引き起こす危険性がある非常に恐ろしい物質です。
石綿関連疾患の予後は悪く、死に至るケースも少なくありません。
実際、本訴訟においても、被災者75名のうち31名が提訴前にすでに亡くなっており、
提訴後も13名もの原告らが石綿関連疾患によって命を落としているのです。
規制権限に関する国の裁量権の広狭や建材メーカーの共同不法行為の成否を考える際には、
このようなアスベストの危険性とそれによる現実の被害の深刻さを考慮することが必要不可欠なはずですが、
形式的思考に終始する本判決は、この点を見落としているように思えてなりません。
原告らが控訴することはほぼ確実と思われますが、控訴審では、正当な判断がなされることを期待します。
【関連リンク】
弁護士 黒澤知弘です。
福島原発事故では放射線の人体への影響がクローズアップされていますが、
1945年に投下された広島、長崎の原爆によって被曝した、原爆被曝者の戦いは今もなお続いています。
原爆被曝者には長く原爆症に苦しめられてきた方が多く、
それは被曝後67年という長大な年月が経過してなおも続いています。
放射線の恐ろしさはここにあります。
現在も収束していない福島原発事故の影響を考える際、
私たちは原爆被曝者の経験から、子ども達の未来を考えなくてはならないのです。
しかしながら、この国の行政は、相も変わらず放射線の影響を過小評価し続けています。
去る3月9日、大阪地方裁判所第2民事部(山田明裁判長)は、原爆症認定近畿訴訟に関し、
未認定原告2名全員の却下処分を取り消し、「原爆症の認定をせよ」との勝訴判決を言い渡し、
こうした行政の姿勢を司法が改めて断罪しました。
行政は、かかる司法判断を控訴することなく受け入れ、原爆被曝者の救済に真摯に取り組むべきであります。
下記は、原爆症認定近畿訴訟弁護団からの「控訴するな!要請」のお願いです。
是非とも、皆様にご協力頂けますようお願い致します。
弁護士 黒澤知弘です。
今般、少年院法、少年鑑別所法及びそれらの整備法である少年院法及び少年鑑別所法の施行に伴う
関係法律の整備等に関する法律の3法案が国会に提出されました。
改正法が成立すれば、少年院や少年鑑別所に、第三者機関である少年院視察委員会が設置され、
少年院等の施設運営に関して意見を述べられるようになるほか、
自己の受ける処遇等について救済の申出が出来るようになるなど、
施設が社会に開かれ、より適切な処遇が行われることが期待されます。
そもそも、この少年院法等の改正は、平成20年3月から平成21年3月までの間、
広島少年院の法務教官4名が、在院者数十名に対し、暴行陵虐行為に及んだ広島少年院暴行陵虐事件がきっかけでした。
広島少年院暴行陵虐事件後、少年院、少年処遇の問題が活発に議論されるようになり、
私も、日弁連子どもの権利委員会においてこの問題に関わるようになっていき、
法務省に設置された「少年矯正を考える有識者会議」にオブザーバー参加をしたり、
法務省の実務者との協議にも参加するなどしてきましたので感慨一入です。
今後も、一人でも多くの少年達が立ち直り、更生していける環境を整えるために尽力したいと思います。